★じびかよろず質問箱★
よろず質問箱・診療編
予約診療と通常の診療を並行して行っています。予約診療枠が全て埋まってしまった場合でも窓口で通常診療の受付ができます。
診療時間の変更に伴い診療総時間が拡大され予約受診の方々の枠数も従来通りに確保したつもりですが,花粉症の時期や感冒の流行時などには枠が埋まってしまう場合もありますのでご了承下さい。
申し訳ありませんが専用電話0186-45-1418および診療予約ホームページ,携帯電話i-mode予約(詳細はこちら)だけが予約の窓口となっています。ご了承下さい。
希望の時間に診察を受けることができるという点では当然予約が有利です。しかし窓口で受付された方には診療予定時刻が印刷された紙をお渡ししますので,その時刻に来ていただければよいので院内での待ち時間は長くありません。つまり院内の待ち時間という点では有利不利はなく,希望の時間に診察を受けられるのかそうでないかの違いだけです。
医院の玄関は7:30に開扉します。受付カウンター上にある自動受付機で診療受付ができます。
自動受付機に診察券を通すと診察時刻が印字されたカードが出ますので,その時刻の5分前までに来院下さい。初めての方は受付機の脇にある空カードを受付機に通して紙を受け取って下さい。
自動受付機の脇に空カード(データの入っていないカード)が数枚置いてあります。そのカードを受付機に通して出てくる紙を受け取って下さい。紙には時刻が記載されていますのでその時刻の5分前を目安にご来院下さい。
連絡を頂ければ助かります。電話予約,ネット予約,i-mode予約をされた方は予約時と同様の手順でキャンセル手続きが可能です。
予約診療は診療する病気の種類に関係なく統計的に計算されたある一定の時間を割り当てて枠取りをしています。これは耳鼻咽喉科疾患が多種多彩でさらに病気の程度が様々であるためやむを得ないことなのです。ある患者さんの診療にどれくらいかかるのか,正直なところその患者さんを診てみないと分からないのです。そのような理由で初診の患者さんが増える時期や,会話のやりとりや処置,検査に時間のかかる患者さんが受診された場合に遅れてしまうことがあります。
平成20年11月1日から診療時間数を増やし,診察が従来よりも順調に流れるようシステムを改変しました。しかしながら予約診療は正確な診察時間を分刻みで保証するものではなく,従来の長い院内での待ち時間を最小限にしようというシステムだということを何卒ご理解下さい。
できるだけ正確な時間に診療を受けたい方は,診療の始まりの時間帯に予約されるとよろしいかと思います。
ロタウイルスワクチン,B型肝炎ワクチン以外は予約不要です。
予防接種はの受付は診療の午前の部および午後の部終了の1時間前までとなりますのでご注意ください。
平日:9:00〜11:00,12:00〜17:00
土曜:9:00〜13:00
診療を行わずに投薬すると医師法21条の『無診療治療等の禁止』に抵触します。ただ,身体的な診察がなくとも患者さんから病気の状態に関する情報を得たのであれば,これは問診という医療行為(診察)に相当します。その情報を得る場所は法的に規定されておらず診察室ではなく窓口でも可能です。窓口から口頭で『特に変わりありません』という言葉を頂ければ投薬は可能です。ただ,急性疾患の場合は症状が日々変化していくため診察や検査が必要です。症状の安定しているアレルギー性鼻炎,耳鳴症などの慢性的な疾患に限ります。
後発医薬品(ジェネリック)とは製造特許の切れた医薬品を他のメーカーが製造しているもので,薬の価格が安くなります。30~90%も安くなりますから,経済的に魅力的です。
だったら全部ジェネリックにしたらいじゃないか,そんな声が聞こえてきそうですがジェネリックにはいくつかの問題が浮上しています。
まずは効果の問題,
ジェネリックのメーカーは薬の粉(元末)を仕入れて独自に加工し薬剤を製造しています。原料が同じでも加工に仕方によって効果が変わってしまうことがあります。薬剤は元末を単に固めてつくるのではなく,吸収を早めるとか,あるいは遅くするとか,飲みやすくするとか,いろんな効果を求めて添加物を加えるからです。事実,ジェネリックに替えたとたんに症状が悪化した症例が数多く報告されています。
そして安全性の問題
原料が同じだから安全,そんなに単純ではないことは昨今の食料品問題でも分かりますよね。ジェネリックの製造には先発品に求められるような厳しいチェックがありません。医療費を抑えるために政府がハードルを低くしているためです。ジェネリックに保証されているのは『原料(元末)が同じ』ということだけです。そしてジェネリックメーカーもピンからキリまであります。どのメーカーの信頼性が高いのか,実際に薬を使う患者さんが情報を得ることは容易ではありません。
医師が薬を処方する際にジェネリックへの変更を薬局に許可すると,処方箋を受けた薬局は独自の判断でジェネリック薬品に変更できます。全ての薬局の善意的な判断を信じたいところですが,安全性や効果は二の次に営利本位でジェネリックメーカーを選ぶ薬局がないとも限りません。
そういうわけで,当院ではジェネリックを処方する際に厳選しています。どのジェネリックでもよいなどということはやりません。信頼できるメーカーかどうか,充分に安いかどうか,子供用の薬品なら味はどうか(実際に私が味見しています),点鼻薬なら使用感は優れているか(実際に私が使用してみます),効果に問題はないかなど,信頼できる薬剤師と相談して決めています。
特に患者さんから求めることがなくとも,信頼できるジェネリックは常に処方しています。もし先発品の安全性や効果に拘りのある方は『先発品にして下さい』『ジェネリックは要りません』と言っていただければそのとおり対応します。
ネブライザー・吸入のためにに通院される方は予約は不要です。窓口に来られた後すぐに治療が行われます。
原則的に小学生以下は保護者の同伴が必要ですが,ネブライザー・吸入治療だけであればその限りではありません。
中学生・高校生も少なくとも初回は保護者を同伴して下さい。アレルギー性鼻炎など病気の種類によっては2回目以降は本人だけでも良い場合も多いです。
もうかなり前のことですが,鼻血が良く出るという高校生が一人で受診して,出血する血管が結構太いものだったので血管を焼灼して帰しました。するとあとで親御さんから電話があって,『こんな治療をしてくれと頼んだ憶えはない』と言われました。オーマイガーッ!!。
診察時刻表に表示されている時刻は診療終了時刻ではなく受付け終了の時刻です。ですから診察時間内に受付していただければ診察可能です。ただ,終了付近は混み合いますので早めの時間帯に受診することをお勧めします。また血液検査については検体収集時間の関係で,5時以降は行えない項目がありますので,後日検査という場合もありますのでご了承ください。
可能な限り善意的に対応いたします。
20台分ほどあります。
学校や職場などに提出する簡便なものは1000円,詳細な記載が必要なもの(保険書類など)は3150円です。さらに詳細なものについては内容によって異なりますのでお尋ね下さい。
待合室ではお使いいただけます。こちらもご覧下さい。
よろず質問箱・耳疾患編
急性とか慢性という用語は病気を時間の切り口からみたもので,滲出性だとか化膿性という用語は炎症の状態という切り口からみたものです。
しかし中耳炎という病気の分類はちょっと複雑で,急性中耳炎が長引いた場合に慢性中耳炎ではなく滲出性中耳炎と呼ぶのです。さらに定義を誤解して中耳炎の経過に関係なく中耳に滲出液が溜まっている場合に滲出性中耳炎と呼ぶ医師もいます。ちなみに慢性中耳炎とは鼓膜に穴(穿孔)があって炎症を繰り返すような状態にある耳をいいます。
さらに滲出性中耳炎という名前がしめす『滲(にじ)みでた』液体が溜まっているのではなく,炎症性の濃い粘液が溜まっていてもそう呼ぶのでさらに誤解を呼ぶこともあります。英語では滲出性中耳炎のことをSecretory Otitis Mediaと呼びます。Secretoryとは『分泌物のたまった』というような意味で,溜まっている液の性状を限定していません。『貯留性中耳炎』とでも訳せば誤解は減っていたでしょう。
というわけで,中耳炎を診察する場合に時間の切り口に注目した医者は『急性中耳炎』と呼ぶし,中に溜まっている液の状態に注目した医者は『滲出性中耳炎』と呼んだりするわけです。自動車をみるときにガソリンエンジンかハイブリットかという点に注目してみるのか,それともセダンかワンボックスかとという点に注目するのか,それと同じようなことです。
綺麗な状態で診察を受けたい,その気持ちはよく分かります。上手に掃除できるのでしたらもちろんやっていただいても結構ですが,わざわざ掃除をされなくともこちらで診察時に掃除しますのでご心配なく。診察前に苦労して掃除して耳から出血して来られる方もいますので無理なさらないように。とくに子供の場合は何もせずにそのまま診せていただいた方が有り難いです。
大人やじっとしていることができる子供であれば最大限に掃除しますが,暴れる子供の場合は鼓膜が見える最小限の除去に留める場合もあります。耳垢はもともと生理的なものです。ぴかぴかてかてかになるまで掃除するのはむしろ有害です。
子供が急に耳が痛いと言い出したとき,その原因のほとんどは急性中耳炎です。特に風邪の最中や治りかけの時ならばほぼ間違いありません。中耳炎による耳の痛みは放置しても1~3時間ほどで治まるのが普通ですが,中耳炎を経験したことがある人は身をもって知っているとおりその痛みは強烈で大人でも泣きたくなるほどです。ましてや子供に『そのうち治まるから我慢しなさい』はちょっとかわいそうです。
中耳炎の痛みには普通の消炎鎮痛剤が有効です。なければ熱さましの座薬で代用できます。しかし,インフルエンザや水痘にかかっている可能性があるときにはアスピリンの入った消炎鎮痛剤(小児用バファリンなど)はライ症候群という命にかかわる怖い病気を起こす可能性が指摘されていますので使うべきではないでしょう。また消炎鎮痛剤で子供に対する安全性がほぼ確立されているのはアセトアミノフェン(商品名:カロナール,アンヒバ、アルピニーなど),イブプロフェン(商品名:ブルフェン,イブなど)のみですから,これ以外の大人用の消炎鎮痛剤を半分にして使用するなどという応急処置は避けるべきでしょう。
耳漏(みみだれ)が出ても心配ありません。むしろ耳漏が出た耳のほうが治りが早いことが多いのです。外に流れ出た部分だけをふき取ってください。綿棒などで耳の奥を清掃する必要はありません。夜中であれば翌日の耳鼻科受診でまったく問題ありません。
大人の急性中耳炎は本人が治っていると感じる状態になれば普通は治っています。しかし,小さな子供の中耳炎は症状を本人に聞いても分かりません。小さな子供は身体の症状について『痛い』『痒い』という表現程度しか持ち合わせていないので,中耳炎の経過の中で起こる耳閉感,難聴,耳鳴りを言葉で表現することができないのです。
急性期を過ぎた中耳炎 子供はこのような耳の状態を言葉で表現できません |
また意外に知られていませんが,中耳炎の初期症状としての耳痛は中耳炎の10〜20%にしか認められません。子供の耳に中耳炎があることを指摘すると面食らった顔をされる親御さんが多いのもそのためです。『中耳炎は痛いもの』という誤った常識がはびこっています。
またそれは同時に上気道炎に罹患しているたくさんの子供の中に耳の症状を訴えない多くの中耳炎の子供が隠されていることを意味します。その大部分は原因となった上気道炎の終了とともに誰にも気付かれないうちに治癒し,数%の子供だけが中耳炎が遷延化し,偶然耳鼻科で発見され,そして長い耳鼻科通院が始まります。
小児期は外部に対して強い興味を持つ一方,身体症状という内部情報については無頓着で,聞こえが悪くなっても全然気にしません。両耳の中耳炎であれば聞こえの悪さが周囲の人にも分かることがありますが,片耳だとまず分かりません。
耳鼻科でのチェックが治癒を確認できる唯一の方法です。
非常に多い質問です。
鼓膜に大きな穴の開いている人を除いて耳の穴(外耳道)に入った水やお湯が直接中耳に影響を及ぼすことはありません。耳に水やお湯が外耳道に入ることは中耳炎の原因になりえないということです。
中耳炎は全てといってよいほど鼻の炎症と関連しています。中耳炎を早く治すということは鼻の炎症を早くコントロールするということと等しいのです。 だから鼻の炎症が悪化するようなことはしないようにということ,つまり新たに風邪を引かないようにということです。最近の住宅事情では昔の家屋と違って入浴後にそれほど寒い思いをすることはなくなりましたから,入浴によって新たに風邪をひく可能性はかなり低いと思いますし,鼻腔に充分な湿気を与えて鼻汁の排泄を促すという点ではむしろ入浴は勧めても良いと思います。もちろん急性期で強い発熱などがある場合には止めるべきです。
中耳炎もピンからキリまでありますから,一概によいとかダメとはいえません。
まず,急性期で耳が痛いときとか,耳漏(耳だれ)が出ているときは問題外にダメです。そのような状態にあるときには発熱があったり鼻汁や咳が出ていることが多く,とても水泳などできない状態にあることは誰が見ても分かります。
悩むのは,急性期の強い炎症が終わって落ち着いてきたときです。すでに痛みはなく,耳がボワッとするかんじ(耳閉感)を伴っていることが普通です。でも鼓膜に大きな穴でもあいていなければ外耳道(耳の穴)からいくら水が入っても中耳には影響を及ぼしません。ならなぜ水泳をやってはダメだと云われるのでしょう。
それは,中耳炎の治癒には原因となっている鼻の炎症が治ることが必要条件だからです。鼻の炎症が治りにくくなるようなことをすると中耳炎も治りにくい,ということです。
かつてのプール熱の流行から昨今のプールには高い濃度の塩素が含まれています。それはすでに消毒の域を超えて人体に影響を及ぼすレベルにまで達しており,有識者の間では問題視されています。室内プールでの喘息の悪化,アレルギー性鼻炎の悪化などはよくあることで,これらは塩素によるものだという意見はすでに一致しています。
中耳炎を起こしているときの鼻やのどの粘膜は本来のバリア機能が低下していて,消毒液の影響を受けやすくなっています。そのような状態で水泳をすると鼻やのどの炎症が強まり,鼻粘膜が腫れて中耳炎が治りにくくなります。特に水泳をした後に鼻が詰まるような場合は粘膜が腫れているサインなので要注意だといえます。
乳幼児の水際での水遊びについては中耳炎のどの時期であってもまったく問題ありません。
中耳炎の治療で鼓膜にチューブが入っている場合にはどうするかについては意見が分かれるところです。チューブを入れてから1ヶ月以上すると中耳粘膜の炎症が落ち着くので問題ないという意見に私は賛成です。10年以上前からチューブを入れた耳の子供に対してチューブ留置後1ヶ月間以上落ち着いていたら耳栓無しで水泳をしても良いと指導してきました。泳いだことで中耳炎が悪化した例は皆無でした。チューブを入れた耳のトラブルはチューブの周囲に付着した痂皮(かさぶた)に感染を起こすことが原因であることがほとんどで,これは泳ごうが泳ぐまいが夏の汗をかくような時期には起こりやすいのです。経験から水泳は無関係(むしろチューブの周りが綺麗になって良い)という印象を持っています。
ただ以上のことはプールに限ったことで,海で泳ぐことは原則的に禁止しています。海はプールよりも環境の変化の幅が大きいので判断がより難しくなります。もし泳ぎたいのでしたら,どのような海でどの程度のことをしたいのか教えて貰えればより的確に答えることができると思います。スキューバダイビング,素潜りは絶対にダメです。
飛行機に乗って耳が痛くなった経験のある人,少なくないと思います。自分の耳は飛行機の気圧の変化に耐えることができるのかどうか,実際には一度乗ってみないと分かりません。小さい頃に長く中耳炎を患っていると中耳の容積が小さいままなので耳の気圧調節がより難しくなります。耳抜きができるようならまず心配は要りません。
飛行機に乗らずに予測する方法として,近いところでは十和田湖の発荷峠から小坂町に下りてくる樹海ラインの坂を利用する方法があります。この道は約600mの高低差があります。ここを車で降りながら唾を飲んだり耳抜きをしたりしてみて耳の気圧が調節できないようなら要注意です。
なんとなるというレベルなら,飛行機が高度を下げ始めた頃に飴をなめたりガムを噛んだり,あるいは頻繁に耳抜きをやって持ちこたえることができるかもしれません。中耳圧と外の空気の圧力の差が開きすぎると圧差で耳管がロックしてそれ以上圧の調節ができなくなります。ですから小刻みに頻繁に行うことがポイントです。
さらに上のレベルとしては,鼻粘膜の腫れを取るタイプの抗アレルギー剤(オノン,キプレス,シングレアなど)をあらかじめ内服し,ステロイド点鼻薬を使用しておくという方法もあります。アレルギー性鼻炎のないひとでもかなり有効です。
最後の手段としてあらかじめ鼓膜切開しておくという方法もあります。さらに何度も飛行機に乗るような長期間の旅行なら鼓膜に換気チューブを入れておくという方法もあります。
詳細についてはご相談下さい。
本来中耳には空気が入っていますが,中耳炎の状態では膿や粘液,滲出液などが溜まっています。
中耳が完全に液体で満たされた状態であれば理論上は外圧の変化の影響を受けません。むしろ中耳炎が中途半端な状態でになっていて中耳腔に液体だけでなく空気も入ってきているような状態の方が問題になります。容易に耳抜きができる状態まで改善しているのなら大丈夫ですが,耳抜きができないと飛行機が降下してくるときに圧の調節ができなくなり耳痛に苦しむことになります。
中耳炎の経過中,耳抜きができない状態で飛行機に乗るのは危険な賭けです。止めた方が賢明です。ポイントは容易に耳抜きができるかどうかです。子供の場合も同様で止めた方がよいと思います。
麻酔をしたとはいっても鼓膜切開は無痛ではありません。できたら痛い思いをさせないで治してあげたい,子や孫を持った人ならだれもがそう思うように,我々耳鼻科医も同じように考えています。ですから切開を勧めるにはそれ相応の理由があります。
耳鼻科医が乳幼児の中耳炎に対して鼓膜切開を勧めるような時というのは,
鼓膜が強く腫れ上がっていて痛みが強いとき
切開するときに瞬間的な痛みはありますが,膿が排出されてすぐに中耳圧が減圧し,すぐに楽になります。このような状態では多くは発熱を伴いますが,切開すると解熱します。
鼓膜が腫れて激烈な痛み |
発熱を伴うとき
中耳炎は感冒に併発することが多いため,感冒自体の熱だったり,あるいは感冒により生じた肺炎や気管支炎の発熱だったりすることもあり,中耳炎による発熱かどうかの判断は難しいのですが,中耳炎による乳突蜂巣炎(耳の後ろにある骨の炎症)の可能性を捨てきれなければ積極的に切開します。発熱の原因が中耳炎ならばすぐに解熱します。逆に,切開しても解熱が認められない場合は他に発熱の原因があるという証拠になります。
長期化して癒着性中耳炎へ |
経過が長く治りが悪いとき
中耳炎は3週間で約90%の子どもが治癒するといわれています。つまり,3週間を超えても治癒に向かった変化が認められない場合,これは治りが明らかに遅いということになります。一般的に中耳炎の治りにくい子は風邪をひきやすいので,いらずらに時間を費やしている内に再び風邪をひくとさらに悪い形で中耳炎が再燃します。また,中耳腔は薄い粘膜の下はすぐに骨になっているため,炎症が容易に骨に及びます。この状態が長く続くと耳の周囲の骨の発育が悪くなり,より中耳炎になりやすくなって,中学校や高等学校になっても耳鼻科通院から卒業できなくなります。
適切に鼓膜切開をすれば,多くの場合中耳炎の治癒までの期間は1/2~1/3に短縮されます。私は4人の子供を持っていますが,うち3名は私自身が鼓膜切開して治療しました。
通常の鼓膜であれば切開しても問題なく元通りになります。切開部分の傷は数日から1週間程度で閉鎖することが殆どです。
ただし,中耳炎を何度も繰り返して石灰化(鼓膜にカルシウムが沈着して硬くなっている状態)や菲薄化(鼓膜が薄っぺらになった状態)した鼓膜では切開した穴が完全に閉じずに残る場合があります。
このようにしてできた穴をどうしたら良いのか。きちんと塞ぐのがよいのかというと必ずしもそうではありません。中耳炎の治療のためにわざわざ鼓膜の穴が閉じないようにしておく治療があります(鼓膜チューブ留置術を参照)。穴のおかげで中耳の気圧調節が破綻することがありませんから,むしろ中耳炎になりにくくなるのです。
大きな穴では聴力の低音成分が低下することがありますが,小さな穴ではほとんど聴力は低下せず,日常生活で聞こえの悪さを自覚することはまずありません。また小さな穴であれば仮に耳に水が入っても表面張力の力で中耳腔には影響はほとんどありません。
急いで穴を塞がずに,自然な閉鎖を待った方がよいと思います。どうしても閉鎖しない場合には手術によって塞ぐ場合もありますが,殆どの場合,待っていると自然閉鎖します。
できれば痛い思いをさせたくないという配慮から特別に強い中耳炎でなければいきなり鼓膜切開を行うということは最近では少なくなりました。緊急的鼓膜切開よりも待機的鼓膜切開が増えたということで,鼓膜切開は中耳炎が治りにくい耳に対して選択的に行うようになってきているということです。
つまり,鼓膜切開を勧められた耳というのはすでに中耳炎が治りにくい耳なのです。そして治りにくい耳というのは同時に中耳炎になりやすい耳でもあるのです。中耳炎になりやすい耳でかつ治りにくい耳であれば自ずと鼓膜切開の回数が増えていきます。一度切開されたことによって癖になったのではなく,それほどまでに中耳炎になりやすく治りにくい耳になっているということを意味しています。「切開されると癖になるから」と鼓膜切開を受けることを躊躇すると耳の骨に影響が出てきます,というか何度も切開されているような耳はすでに中耳炎によって骨への影響が出ているのが普通です。さらに悪化させないためにも鼓膜切開や換気チューブ留置術を受けることをお勧めします。
発育と共に耳の周囲の骨に含気化という現象が起きます。これは骨の内部に小さな空洞がたくさん発達してまるで蜂の巣のようになる変化です。このようにしてできた空洞を蜂巣(ほうそう)と呼びます。
側頭骨の蜂巣 |
この蜂巣の発達にどういう意味があるのか,簡単に言うと
蜂巣が発達した耳は強い耳で,発達しない耳は弱い耳です。
何に対して強いかというと,環境(気圧)の変化と,感染に対してです。
蜂巣は中耳腔とつながっていて中耳腔の一部です。つまり蜂巣が発達しているということは中耳にたくさんの空気が入っていることを意味します。
中耳の空気が少ないと,外から鼓膜にかかる圧力の変化がわずかであっても中耳腔では大きな圧の変化になります。
10リットルもあるような巨大ワインボトルと250ミリリットルしか入らないプチワインボトルを想像してみて下さい。それぞれのボトルの口から同じ大きさのコルク栓を差し込むとしましょう,大きなボトルには簡単に入るでしょう,小さなボトルにはなかなか入りません,無理に入れようとしてもコルクが中の圧力で戻されてしまいます。外から同じ力(圧)がかかっても中の空気が多いとそれほどでもないのに,少ないと中の圧力が大きく変化するということです。このように圧変化の激しい耳は風邪をひいたり飛行機に乗ったりして中耳腔の圧調節に負担がかかると圧変化に耐えられなくなり容易に中耳炎が起きます。
大きく発育した蜂巣 | 発育が抑えられた蜂巣 |
蜂巣の発達は小学校の高学年の頃まで続きますが,発達に最も影響を及ぼすのが乳児期の中耳炎です。この期間に生じた中耳炎はできるだけ早くコントロールしないと蜂巣の発育が抑制され,通常なら中耳炎治療を卒業する小学校2〜3年生以降も耳鼻科との腐れ縁が続きます。
中耳炎などいずれ治るだろうとゆっくり指をくわえてみていると,最終的には大きなツケを払うことになりかねません。特に乳幼児の中耳炎は早期にコントロールすることが重要です。
近年,抗生物質の使いすぎが問題視されています。必要でもない抗生物質を投与されて副作用が起こって具合が悪くなったのでは本末転倒です。
適切に抗生物質を使えば良いではないか。そうです,そのとおりです。しかし医者達もそう考えながら実際には必ずしもうまくいっていません。
細菌検査はどの抗生物質を使ったらよいかという選択肢を与えてはくれますが,肝心の『抗生物質が必要かどうか』を教えてはくれません。知りたいのは病原菌をその人の免疫力で駆除できるのか,それとも抗生物質の助けが必要なのかなのですが,そこが検査では分からないのです。しかし実際には抗生物質が『必要』などという状況は,全身的あるいは局所的な免疫力が極端に低下してでもいなければ普通はないことで,現実的には『使った方がよい』か『使うほどでもない』という選択がほとんどです。このように本来境界が曖昧でもよい領域にはっきりと区画線を引こうとしているので混乱を生じているのです。
昨今『風邪程度では投与しない』『中耳炎では投与しなくともよい』『成人の副鼻腔炎では必要ない』など,病気の種類で縦割りして抗生物質が必要かどうか決めようとする傾向があります。
私は,それは誤っていると思います。
これを抗生物質なしで治療するのは…… |
抗生物質とは自らの免疫力によって細菌を排除できない状態の患者さんが使うべきで,かかっている病気が風邪だとか中耳炎だとか副鼻腔炎だとか,疾患名で縦割りにして決めるべきではないのです。経験の長い医師は理屈云々よりも長年のカンでそれを感じ取って抗生物質を投与します。
風邪をよくひいて中耳炎が頻繁に起きる子供なのに近所の医者に行ったら『風邪程度なら抗生物質は必要ない』といわれ,数日したら発熱の後に耳だれが出てきた。こんなのはもうざらです。この子の免疫力が低いことを示す病歴を軽視したためです。『悪くなったら使ったらいいんじゃないの』という声も一部の医師から聞こえてきますが,だったら医者など要らないのではないでしょうか。
極論を言えば,抗生物質が必要かどうか,それを決めるのは病名ではありません。
免疫力が低いことを示す既往歴 です。
風邪をよくひいて,そのたびに治りが長引いて肺炎,扁桃炎,副鼻腔炎になったり中耳炎になったりする。そのような全身的あるいは局所的な免疫力の低下を示唆するような病歴があるかどうか,それが抗生物質を使うかどうかを決める最も重要な指標です。疾患名で単純に縦割りにしてで決めるのではなく免疫力のレベルによって横割りにして決めるということです。昨今耐性菌という抗生物質の効きにくい厄介な菌が問題になっていますが,もしこのような菌でも荘強な健常者に検出されたのであれば,少なくとも本人に対しては病原菌たり得ず抗生物質の選択に四苦八苦する必要はないのです。
免疫力を検査によって確かめる方法もありますが,何よりも病歴がそれを如実にそして無料で示してくれます。利用しない手はありません。
抗生物質の必要のない人,長期間必要な人,さまざまです。止めたいと思っても無理に止めると特に乳幼児の中耳炎では一気に悪化して化膿することを我々はよく経験します。抗生物質は下痢や薬疹などの副作用が時折ありますが,一部の抗生物質を除いて子供の成長に中長期的な影響を及ぼすものはありません。長い投与が心配になったときにはどうぞ仰って下さい。ご要望に応じて局所処置を増やして対応したいと思います。
成人の感冒に対してですが,マイコプラズマや百日咳に対する懸念から私は処方してしまうほうです。もし,処方を希望されない方は申し出て下さい。
これは非常に多い質問です。
日本人の多くがかさかさの耳垢(乾性耳垢)ですが,実は,これは医学的には耳垢ではありません。乾性耳垢とは実は耳垢がないということなのです。医学的(生物学的)な耳垢というのは垢ではなく耳垢腺と呼ばれる分泌腺から分泌される分泌物です。よく『猫耳』とか『谷地耳』と呼ばれる茶色く湿っぽい耳垢(湿性耳垢)だけが生物学的な耳垢なのです。乾性耳垢とは『耳垢』ではなく『耳の皮膚から出た単なる垢』なのです。これは朝鮮半島や日本に多いことが知られています。
『耳くそ』などと蔑まれている耳垢ですが,実は立派な役割があります。
外耳道の保護
外耳道の自浄作用
が主なものです。人間と類人猿以外は自分で耳掃除ができません。耳の中が自動的にきれいになるよう神様が哺乳動物たちに耳垢とうものを備えてくれたのです。耳垢がなければ四つ足動物の耳の中は外からの汚れや異物によって塞がって使い物になりません。耳垢が耳の奥から徐々に入り口まで移動していく間に耳の中の汚れをかき集めて,入り口に排出させます。集塵作用では湿性耳垢にかないませんが,乾性耳垢も外耳道を綺麗に保つのによく働いてくれます。
結論を言えば,掃除のし過ぎはダメです。耳掃除は気持ちがよいので癖になりがちで,掃除による皮膚の刺激で湿疹が起こったりします。また綿棒を使って掃除をすると奥に耳垢を押し込んでしまうことが多く,湿性耳垢の場合は耳穴を完全に密閉して難聴を起こすことがあります。
耳垢は耳の入り口から見える範囲のものを綿棒や耳かきで軽く掻き出す程度で充分です。奥に見える耳垢は待っているといずれは入り口まで移動してきます。気になるようなら耳鼻科で掃除をお勧めします。耳掃除の腕なら誰にも負けませんよ。
『耳が遠くなってきたんだけど,補聴器を使った方がいいですか』このような質問を受けることがあります。
少しでも不便を感じたら補聴器を使った方がいい,できたら両側に使った方がいい,このような台詞を聞くことがありますが,商業主義による汚染を感じます。
ご本人が不便を強く感じているのなら軽い難聴でも補聴器を使うのが良いと思いますが,例え強い難聴であっても本人が不便を感じない,使いたくないというのであればそれは最大限に尊重すべきだと思います。
よくあるパターンとして,おじいちゃんやおばあちゃんの耳が遠くなってこちらの話を分かってくれない,テレビの音が大きいから補聴器をかけさせたい,というのがあります。
この場合でもご本人達の意志を最大限に優先して上げて下さい。耳が聞こえないことによって周囲の人に迷惑がかかることはあります。場合によっては一人の部屋で寂しくイヤホンでテレビを見なければならなくなるかもしれません。それを含めてご本人達に判断を仰いで下さい。加齢や動脈硬化などによる脳機能の低下で理性的な判断力を失っているようなら補聴器装用を強要する理由はさらにありません。
補聴器を装用するかどうか,それはその人の人生観,つまり哲学の問題です。検査の結果で判断することではありません。もしも私が年老いて『話が分からないなら補聴器をかけろ』などと云われるのはまっぴらごめんです。
ちょっと遠回しな言い方になりますが,
世の中バリアフリーという言葉がもて囃されています。バリアフリーとは生活空間を障害者が使いやすいように工夫することです。しかし周囲を見ると専ら建物などのハードウエアの改良だけに留まっていて,ソフトウエア,つまり健常者側からの行動によってバリアを低くしようという姿勢が逆におろそかになっているように感じます。いくら歩道に点字ブロックを造ろうが,いくら車いす用のスロープを造ろうが,いくら補聴器を無料サービスしようが免罪符になどなりません。むしろそのような姿勢は障害者をバカにしたもので無責任だと感じます。
私が言いたいのは,バリアの低減という目的を建物などのハードウエアに丸投げするのではなく,まず行動というソフトウエアによって行うべきだという姿勢を持って欲しいと言うことです。そのような点でこのような質問があることは実に好ましいことです。
老人性難聴の人と話すにはどのような点に気をつけたらよいか,最近ではコマーシャルもあるので知っている人もいると思いますが,まだまだ知らない人が多いようです。
基本はやや大きめの声でゆっくり話すということです。
聞こえないなら大きな声で話せば分かるだろうと誰もが考えがちですが,難聴(内耳性難聴)の耳はダイナミックレンジが狭いため小さな音は聞こえにくく,逆に大きな音は歪んで不快に聞こえるという性質を持っています。大きな声で叫んでも彼らは不快なだけです。
また彼らの聴力は時間分解能が低下しています。簡単に言うと早口言葉が聞き取れないということです。だからゆっくりと話かけないと話が分かりにくいのです。
「聞こえないなら補聴器をかけろ」などというのは言葉の暴力以外の何物でもありません。補聴器というのは不便な物です,装用したからといって健常者と同じように聞こえるわけではありません。補聴器装用を単に勧めるのではなく健常者側から行動によって歩み寄ることこそが真のバリアフリーではないでしょうか。
よろず質問箱・鼻疾患編
抵抗はあるかもしれませんが,できるだけ鼻をかまない状態で診せて下さい。鼻汁の量,色調,粘り,血液の混入,臭いなど,我々耳鼻科医にとって鼻の病気を診断する重要な情報です。
鼻に炎症が起きている場合に注意することは,鼻腔内に速度の速い気流を発生させないことです。強くかんでもダメです,強くすすってもダメです。片側づつ鼻をかんでもこれは守らなければなりません。
中耳炎や副鼻腔炎の起因は中耳腔や副鼻腔の調圧機構の破綻です。ちょっと専門的な説明になってしまいますが,速い気流があると,近くにあるものが気流の方に引きよせられます。二枚の紙の間に息を吹きかけると紙がくっつくのもこのためです。これをベルヌーイ効果といいます。
鼻腔に早い空気の流れがあるとベルヌーイ効果によって鼻腔内の鼻汁,鼻粘膜,周囲の副鼻腔や中耳内の空気までもが気流に引きよせられます。鼻をかむという行為はベルヌーイ効果を利用したものなのです。
鼻腔から副鼻腔や中耳に連なる通路はただでさえ狭いのですが, 炎症があると腫脹によってさらに狭くなっています。この状態で強く鼻をかむとベルヌーイ効果によって中耳腔や副鼻腔の空気が鼻腔側に引き出され,各腔の内圧が陰圧なり,鼻腔との圧差によってバルブのようにブロックして元に戻らなくなります。そしてそれぞれの腔は外界と隔絶された閉鎖腔となって細菌感染が発生するのです。鼻をかんだ後に鼻の中で『チュイーン』という音を感じる場合がありますよね。あれはベルヌーイ効果によって陰圧になった副鼻腔の圧が戻るときの音です。あのような音がするようでは強くかみすぎです。
両側を押さえてかむと速い気流は発生しませんが,今度は逆に副鼻腔や中耳腔に陽圧がかかります。耳に『ブッ』と圧がかかる感じがしますよね。粘膜 に炎症があるとその圧が戻りにくくなります。これをリバースブロックといいます。これも中耳炎の原因になりますから要注意です。
片側でも両側でも,鼻がかんだ後に『チュイーン』と鳴ったり,耳が『ブッ』と鳴らないように注意して鼻をかむことが大切です。
鼻の薬は大ざっぱに分けると2種類あります。鼻汁を止める薬と出す薬です。
鼻汁を止める薬は,風邪の急性期(カタル期)やアレルギー性鼻炎の治療に使います。中身は抗ヒスタミン剤で鼻汁の中の水分を少なくする働きがあります。
鼻汁を出す薬は,風邪の回復期や副鼻腔炎(蓄膿症)の治療で用います。鼻汁の粘りけを少なくして鼻汁の排出を促します。
風邪の回復期や副鼻腔炎の治療薬によって鼻汁の排出量が一時的に増えたのであれば,それは良い方向に向かっていることが多いのです。そのような状態で鼻汁を止める薬(抗ヒスタミン剤)を使うと鼻汁の粘性が増してしまい,外見的には鼻汁が少なくなったように見えて鼻腔や副鼻腔にはねばねばの鼻汁が充満してしまいます。
市販品の総合感冒薬にも抗ヒスタミン剤が使われています。説明書には『風邪の初期症状の緩和』と記載されているのに,初期(カタル期)を過ぎても飲み続けて副鼻腔炎になった患者さんは枚挙にいとまがありません。鼻汁とはもともと身体から異物や有害物,老廃物を排出させるための生体反応です。これを押さえてしまっては病気が起きてしまいます。副鼻腔炎もそうですし中耳炎もそうです。経験のある人は知っていますが,鼻の出る量が増えて,鼻をかんだ後に鼻の奥がすっきりするようになれば鼻の炎症は治癒に向かっているのです。鼻汁が増えてもかんだ後にすっきりするのであれば心配ありません。
抗ヒスタミン剤は皮膚疾患の治療薬としても広く使われていますが,感冒時にその薬をどうしたらよいのか全く啓蒙されていない現状があります。アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患を治療中に感冒にかかった場合,鼻汁の変化に注意しないと容易に副鼻腔炎を生じます。
アレルギー性鼻炎の治療薬としてもらった薬で鼻汁が止まらないのであれば,それは効果が不足しているということなので治療を再検討してもらう必要があります。
鼻が悪いと頭が悪くなる,などとまことしやかに言われていた時代がありました。窓口負担も安い時代,それを信じた人たちが耳鼻科医院の門前に市を成した時代,もうすでに過去のことです。
鼻が悪いと頭が悪くなる,そのように言う人は最近では少なくなりましたが,これは本当に朽ちた常識なのでしょうか。
実は朽ちてはいません。頭が悪くなる(勉強の成績が悪くなる)という表現には問題がありますが,脳の働きに影響を及ぼすことは間違いはありません。実際に鼻が強く詰まった人は仕事や勉強の効率が極端に落ちることを経験します。
でもそんなのは鼻の病気に限ったことではありません。胸の病気だってお腹の病気だって,手足の病気,皮膚の病気,目の病気など,どの部分の病気であっても注意力や集中力を低下させ人間の生活活動に支障することに違いはありません。
しかし,そのような病気の一般的な性質を差しひいても尚,鼻の病気は脳に影響を及ぼすいうことができます。それは,鼻には脳の性能を維持する重要な役割があるからです。
それは何かというと脳を冷却する役割です。
脳には心臓から血液が送られますが,血液はほとんど冷却されずに脳に送られます。頸部では体表に近い部分を走行している頸動脈ですが,血管壁が厚いこと,血液の流れが速いこと,人間の頸が短いことが原因です。
脳という高性能CPUは熱を発生します。これはコンピューターのCPUと同じです。あなたがノートパソコンをお持ちなら使用中にかなり熱くなることはご存じでしょう。
また同時に脳は熱に弱いのです。脳という部分が身体のなかで冷却されやすい末端部分にあるのはそのためで,筋肉部分の多い胴部が運動によって過熱しても熱の影響を受けにくい位置にあります。
発熱などで脳温が上昇すると過熱したコンピューターのように脳は『熱暴走』を起こします。これが子供の熱性痙攣やいわゆる『うなされる』という状態です。人間は古い時代から発熱時に頭を冷やすと楽になることを経験から知っていました。きっと石器時代の人達も発熱時には頭を冷やしていたことでしょう。
しかし,外からだけ冷却だけでは不十分な場合もあります。特に丸い物体の真ん中付近は物理学的に冷えにくく,二足歩行によって容量が拡大した人間の脳は他の動物の脳よりもさらに冷えにくくなっています。
冷却されにくい頭部の中心を内部から冷却するのが鼻の役割です。鼻の粘膜や鼻の周囲には静脈が網目のように発達し,脳や顔の深い部分から戻ってきた温度の高い血液がそこを流れます。静脈が網目のように分岐することで血管の表面積が増え,流れる血液の速さが遅くなることで放熱しやすい構造になっています。鼻の粘膜も複雑に折れ曲がることで表面積を増やし,まさしくラジエーター(熱交換器)の構造を作っています。
鼻の静脈から周囲の組織に熱が渡され,さらに鼻を通る空気にその熱が渡されるのですが,この時に粘膜が粘液によって湿っているために生じる気化熱で熱の受け渡しが効率的にできるようになっています。気化熱とは,たとえばアルコールで手を消毒するとひんやりしますよね,液体は蒸発するときに熱を奪うのです。鼻の粘膜が乾いていると鼻が苦しいのは気化熱が利用できず鼻の中の温度が下がりにくいためです。
鼻の中で空気に渡された熱は吸気を加温加湿するという見事なエネルギーリサイクルが行われています。またこのようにいわば『静脈血冷』方式で放熱することにより,仮にサウナのように体温よりも高い空気の中で呼吸しても鼻の中で熱せられた血液が静脈を通って心臓に戻ることで脳に熱が逆行するのを防いでいます。単なる『空冷』方式ではこうはいきません。このような合理的なしくみによって体の表面からは冷えにくい頭部の中心部分を冷やすことができます。これこそ神様が顔の真ん中に鼻をつくった理由です。
鼻が詰まって脳温が上がった状態は脳の活動を低下させます。発育期にある子供らの鼻詰まりはきちんと治療するのがよいし,熱が高くて鼻詰まりがあるときには鼻を通してあげるとずいぶんと楽になります。
(2008年11月21日 北鹿新聞 お茶の間クリニック掲載)
いろんな情報があったほうがいいことは確かなので,やったほうがいいのかと聞かれれば
まあそうですねえ
とは答えますが,正直いって釈然としません。
採血で行うアレルギー検査をRAST(ラスト)といいます。これはIgEという物質を介して起こるアレルギー(アトピー型といいます)を調べる検査ですが,特に大人ではアトピー型でないアレルギーの人がたくさんいて,これはこの検査では分かりません。大人でRAST検査の結果でアレルギーの原因が推定できる人は10〜20%程度ですから,数千円も自腹を切る検査としてはコストパフォーマンスが悪すぎます。
さらにRASTは『感作』を調べる検査で『発症』を調べる検査ではありません。これを多くの人が勘違いしてます。
感作を調べることは,体内に残っているアレルギー反応の履歴を調べているだけです。今現在の症状を起こしている物質を知ることはできません。
秋田大学耳鼻咽喉科の本田耕平先生が調べたところによると,八郎潟町の小学校児童を対象にハウスダストのRAST陽性率(つまり感作率)を調べたら50%もありました。陽性になった子供の中で症状のある人はさらにその中の45%(全体の22.5%)でした。つまり検査が陽性なのに症状のない人が55%(全体の27.5%)もいるのです。ということは,アレルギー症状のある人を検査してみて仮にハウスダストのRASTが陽性であっても,症状がはたしてハウスダストによるものなのか,はてまた他のアレルゲンによるものなのか分からないということなのです。また陰性であってもIgEを介さないアレルギーだと原因になっていることがありえますから,結果が陽性でも陰性でも原因になっている可能性を捨てきれない,こんな検査ってどれくらいやる意味があるのでしょう。
医者A『ハウスダストRASTの値が高いですね,おそらくこれが原因ですね,でも違うかも知れませんね,正確なところは分かりませんね』
……ならどうして検査するんでしょう!
そう感じるのが正常です。
アレルギーの原因物質を正確に知る方法はありません。
子供の場合はIgEを介したアレルギー(いわゆるアトピー型とよばれるもの)が多いので,RAST検査の結果は大人と比較すると症状とかなり相関するようです。ですから子供の場合はやる意味は大人よりは大きいのです。さらに感作の程度を経時的に追うことで,今後の経過を予想することもある程度可能です。
検査よりも,悪化する時期や悪化する状況などを手がかりにして,つまりは状況証拠を積み重ねて原因を推定する方が賢明だと思います。そして何よりも,原因が分かったからといってアレルギーが治るわけではないし薬剤が変わるわけでもありません。意味ある検査だけを受けるようにしましょう。
うちの子,鼻血が頻繁に出るのですが大丈夫かしら。もしかしたら血液の病気では……,
そうですね,その心配な気持ちは充分に理解できます。しかし,結論から言えば鼻血だけならまず心配いりません。
血液の病気による出血は,大ざっぱにいうと血液を固める凝固因子と呼ばれるタンパク質の異常と,血小板の異常に大別されます。前者は血友病,後者は特発性血小板減少性紫斑病が有名です。
凝固因子の病気では身体の深い部分で出血します。たとえば関節の中や筋肉の中です。そのような状態をさしおいて先に鼻血ばかりが出るということはありません。
血小板の異常による出血では青あざができます。ちょっとぶつけただけで簡単に青あざができてしまいます。やはり,そのようは状態をさしおいて鼻血ばかりが出るということはありません。また,血液の他の病気(白血病,再生不良性貧血,骨髄異形成症候群など)でも血小板が減って出血を起こしますが,やはり青あざが主体で,それ以上に貧血が顕著になるので一見して鼻の異常だけではないことが分かります。
子供の鼻血の大半はアレルギー性鼻炎が原因です。
レントゲン撮影をされるとなにか悪いものでも浴びたような気分になる,何度も撮影したらガンになるのではないかと心配する人もいるでしょう。
地球で普通に生活していても宇宙や地面,食物などから放射線を浴びます。これを自然放射線と呼びます。1年間に約4.5ミリシーベルトほどです。ここではこの単位の意味は割愛します。
鼻のレントゲンを1回撮影することによって浴びる放射線の量は0.1ミリシーベルト以下です。つまり,全くレントゲン撮影をしていない人でも鼻のレントゲン写真を50枚近く撮影するだけの放射線を1年間に浴びているということです。鼻レントゲン撮影の放射線量がいかに少ないかがご理解いただけるかと思います。ご安心下さい。もちろんそれは安易に撮影をしても良いということではありません。
当院では行っておりませんがCT撮影は鼻のレントゲン撮影の70〜200倍の放射線を浴びます。危険と利益を考えた上で慎重に行う必要があるということです。疾病への心配から安易にCT検査を求めることは避けるべきでしょう。
もちろん当院ではレントゲン検査は必要最小限の回数で行っております。
学校検診で指摘される耳鼻科の病気の大半は鼻炎(アレルギー性鼻炎)です。3〜5人に1人は います。程度はさまざまで,鼻炎の所見があっても症状がない人から眠られないほど症状の強い人までいます。あと,意外に知られていないのですが鼻血が頻繁 に出るという症状だけのアレルギー性鼻炎も多いのです。
健診の鼻内所見と症状の程度は必ずしも一致しません。そのため少なくと私の場合,よほどひどい鼻炎の所見がなければ『経過観察』,つまり症状が気に なるようなら受診するよう指導しています。学校健診でアレルギー性鼻炎(経過観察)として指摘された場合に耳鼻科の受診をすべきポイントとして,
- 見ていてイライラするほど頻繁に鼻をかんだりすすったりしている。
- 夜中に起きて鼻をかむ。
- 苦しそうにいびきをかいて寝ている。あるいは鼻が詰まって眠られない。
- 朝起きると口の中がカラカラに乾燥している。
- 鼻血の回数が多く,量も多い。鼻血で保健室に行ったことがある。
- 鼻をよくこする,鼻の入り口の皮膚が赤くただれている。
- 歯に問題がないのに口臭が強い。
などを上げておきます。参考にして下さい。
通常秋以降にダニアレルギー症状の悪化が始まります。夏の高温多湿で大繁殖するダニ,生きているうちは害が少ないのですが,秋の湿度の低下に耐えられず多くのダニが死んでいき,その死骸がダニアレルギーの症状を悪化させます。
高温多湿な夏の日本では,いかなる対策を立ててもダニの繁殖を防ぐことはできません。毎日細かに掃除をするというのは確かによいことでしょうけど,普通は疲れて続きません。
増えたダニを秋以降にどうしたらよいかという点に絞って対ダニ戦略を立てるのが賢明でしょう。
ダニは家中にいますが,最も濃密に生息するのが敷布団の中です。毎日汗やよだれを吸って有機物と湿気に満ちた布団はダニのパラダイスです。一枚の敷き布団の中に3000万から日本の全人口ほどのダニが住んでいるといわれています。すごい数です。
私が日頃強調しているのは,布団ほど家の中で最も汚いものだということ。トイレの便座なんて目じゃありません(最近の研究では便座は机よりも清潔だそうです)。布団は,たとえるならば厚手の綿入れを毎日着て汗をかいて,それを全く洗濯をしないで使っているのと同じです。
大人が寝ている間に大量の汗をかくのは病気の時くらいですが,子供の場合は病気ではなくても頻繁にあります。小さな子供ほど多いようです。さらにヨダレだってかなりのものです。ですから大人の布団とは比較にならないほど汚染が強いと見るべきでしょう。
ダニアレルギーのある子供の敷き布団は秋口に布団を入れ替えるのがいいと思います。丸洗いクリーニングもいいですが,クリーニングの値段と新規購入にかかる費用をくらべて考えて下さい。それができない場合でも天日に乾燥させて10分程度しつこく掃除機をかけてダニの死骸を吸い出して下さい。ダニの死骸は湿気と汚れによって内綿に強く吸着していますからしっかりと乾燥させてから掃除機をかけて下さい。乾燥させて叩いただけでは内部のダニ死骸を表面に拡散させるだけです。
うちは布団ではなくベッドだし,ベッドマットは抗菌・抗ダニ仕様だから大丈夫,なんて思っている方,世に出回っている抗菌・抗ダニ製品の,その効果の期間を保証している物は皆無です。効果が永続することも科学的に考えても不可能です。長く使っているのでしたら効果が切れていると考えるべきでしょう。布団同様に掃除や交換することをおすすめします。
日本では古来から布団を使い続けるという習慣があり,みなさん大切に使い続けているようですが,ダニアレルギーが強い場合は布団は消耗品と割り切って考えるのがよいと思います。
よろず質問箱・のどと口の疾患編
中年以降の女性に多い訴えです。不眠や自律神経症状などを訴えている人に多いようです。
口やのどの異常を感じた際,あるいは何かの偶然に鏡にのどを映して見つけてしまうようです。
舌の奥に2〜3mmほどのブツブツがたくさんあるのは有郭乳頭(ゆうかくにゅうとう)と呼ばれるもので,味覚と深く関係があります。ないと困る構造物です。
外来でいくら説明しても分かっていただけないことがあるのですが。身近な人をつかまえて,舌を強く突き出してもらって奥を懐中電灯で覗いてみて下さい。ない人はいません。
舌は平坦な粘膜ではなく,細かく先の尖った突起状の粘膜(糸状乳頭)の集まりです。そのためわずかな粘膜のコンディションの異常が表れる部分でもあります。
どういうことかといいますと,ほっぺた粘膜のように凸凹のない平らな粘膜だと唾液で濡れていれば状態が悪くてもそこそこ綺麗に見えるます。たとえば汚れた車でも水で濡らすと表面に水の反射膜が光沢を作って綺麗に見えてしまう。水の作る反射が車が汚れていることを隠してしまうんです。
しかし,舌の表面のように細かな突起によって作られたものには粘液による反射膜ができにくく,ごまかしが利きません。また狭い範囲でありながら突起によって粘膜の広い表面積をもっているので,粘膜全体のコンディションを凝縮して表現している部分といえます。
舌が白いという場合,粘膜の状態になんらかの異常があると考えるべきで,原因を調べずに舌だけ磨いてもダメです。第一,舌が汚れているように見えるのは苔ではありません,無理にしごきとっても粘膜を傷つけるだけで,粘膜の表面が角化してさらに状態が悪くなるでしょうし,味覚もおかしくなってしまいます。
舌の異常に内科的な疾患が隠されていることが多いことはよく経験するところです。色の異常や感覚の異常なを感じるようなら磨く前に一度ご相談下さい。
よろず質問箱・予防接種編
2005年に接種が事実上中止になった日本脳炎ですが,より副反応の少ないといわれる新型ワクチン(ジェービックV)による接種が今年の6月から始まっています。しかしその接種は希望者だけに留まっていて,接種再開後も当院で接種された人は数名のみです。
日本脳炎は身近な病気ではなくなりました。日本でこの病気にかかる人は年間数名程度になったといわれています。それは予防接種のお陰です。東日本や北日本に住む人たちではおそらくこの病気の本当の怖さを知る人はもう殆どいないでしょう。しかし日本以南のアジア地区では未だに年間1万人以上の人がかかっている病気で,発症すれば死亡率20%,かりに生き延びても重い神経後遺症で苦しむ大変な病気です。
行政は積極的には予防接種を受けることを推進していません。理由は何かの場合に責任をとりたくないからです。あくまで本人の希望で,自己責任で受けるよう促しています。
日本人はこのようにマイナス要因を提示された状況での自己決定が苦手な民族です。日々危険の中で暮らしているのにそれには無頓着で,それでいながら僅かな危険性を人から指摘されるとそれだけで尻込みしてしまう。
結論,できるだけ日本脳炎の予防接種を受けましょう。厚生労働省はブタのウイルス抗体価を測定していて,日本にいるブタにはウイルス感染があることを確認しています。なってからでは取り返しのつかない病気です。
子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)には現在サーバリックス(2価)ガーダシル(4価)とシルガード9(9価)の3種類があります。現在はサーバリックスを選択する方はほとんどいません。公費負担で接種するかたもほぼ全員がガーダシルです。シルガード9は公費接種の対象外で接種料金も非常に高価(3回接種の合計で8万円強)ですので,現実的な選択の対象にはなりにくいと思います。