人間と病気を分離して考える
暦のミシン目をぴりりと破り11月,全国版のTV番組は秋の深まりをしんみりと告げているが,秋田県の11月は既に初冬である。これから冬囲いやタイヤ交換など,冬支度の忙しさが北国の風物詩である。
暦の旗日が2つ以上あると喜ぶのが普通だが,11月並の寒風が吹きすさぶ厳しい昨今の医療経済下では旗日の多さを喜ぶ余裕などない。何が良くて何が悪いのか,悩みの多い日々が続く。
さて,今日のお題は「いまの医師にオススメの座右の銘」である。
五十を過ぎれば誰でも座右の銘のようなものを持つものではなかろうか。なにも故事成句や格言やらで格好をつける必要はない。「人の話を最後まで聞く」「人の話を遮らない」「穏やかな表情を保つ」「人の言うことを頭からに否定しない」など,小学生の標語のようなもので十分だ。むしろそのように単純化された銘こそが事の本質を示すことが多い。
医師として持つべき銘として何がオススメか,上に述べたものも有力候補だ。事実これらを実践できている医師がどれほどか患者さんたちはよくわかっていることだろう。
たとえ他の職業でも人と接するという職業であるならば銘は類似したものになるだろう。むしろ医者よりもずっとそれを意識しなければならない。彼らはそれを実践せねば瞬時に職を失うことになる。たとえ気に入らない客であってもぞんざいに扱うことなど一般社会では許されない。
だがいまだに医師はそうではない者が少なくない。医師は気分屋が多い。何故か,それは気分で仕事をしても淘汰されず食っていけるからだ。気に入った患者には懇ろに,気に障った患者にはきつめに説教して「改善しないようならまた来てください」の一言も言わず,塩でも撒きたいような顔で追い出す,それでも食っていける。彼らは未だに小さな第一書記である。だがそんな時代はいずれ終わる。
不満や猜疑心を向ける人に協力するというのは難しい。「○○病院ではこんな治療をした」「○○という検査をしてほしい」「診断が違うのではないか」「もっと上位の医療機関に紹介してほしい」このような問いは少なからず医師の自尊心を傷つける。
だが,そんなことで患者に報復的な行動を取るような小物医者にはなってはいけない。
たとえその患者自身に不満があっても彼の病気に向き続ける姿勢だけはおろそかにしない。つまり対象となる人間そのものとその人間がかかえる身体上の問題をきちんと分離して扱うということだ。座右の銘にしては長ったらしいが,これはかなりオススメである。